コーチから見たエグゼクティブの姿
コーチングを受けた側の変化は語られることがありますが、それに関わる「エグゼクティブコーチ」の側からの視点の話はなかなか語られないもの。
日夜、企業エグゼクティブと関わっているコーチが普段どんな視点でリーダーの皆様を見ているか、何を意図して関わっているのか。リーダーの皆様はご興味ありますでしょうか?
そんな視点から、CTIのファカルティであり、企業エグゼクティブへのコーチング経験も豊富な植田裕子さんに話を聞いてきました。
後半は意識の成長に着目したリーダーシップ開発プログラム「The Leadership Circle®︎(TLC)」のお話になっていますが、それも含めて「人の成長に向き合う際の視点」という意味では企業で働くリーダーの皆様にとっても価値の高い情報になっていると思いますので是非ご覧になってください。
役員からチームリーダークラスまでのコーチングを実施
山田)現在は主にどのような方を対象にコーチングをされているのですか?
植田)組織に属している方を中心に、独立事業主の方などにもコーチングを提供しています。組織に属している方の階層は役員の方から若い人はチームリーダークラスの方もいらっしゃいますね。
山田)主に「人をリードする立場」にいる人をコーチングされている現状ですね。
植田)そうですね。
導入時にTLCを用いることによる効果
山田)コーアクティブ・コーチとしてかなりの経験と実績をお持ちのゆうこさんですが、現在、そうした立場にいらっしゃって、TLCを学ばれたことによるBefore – Afterみたいなところ、何か感じるところがあればお聞かせください。
植田)う~ん… これはすごくたくさんありますね(笑)
山田)あるんですね。
植田)はい。それまでもコーチングをしていて、今でももちろんできるのだけれど、コーチングの冒頭にTLCを持ってくることで、その人の今が「見える化」されます。それによって、スタートダッシュが早いというメリットを実感しています。
特に組織の費用負担でコーチングを導入する際、スポンサーが間に入る時にこれはとても大事なことなのですが、コーチングの期間が「30回コース」とかはなく、短かったら6回とかの設定になります。比較的短い期間で変化を期待されるという状況ですね。
このような状況においては、コーチングの冒頭に「課題認識を明確に握る」というところがコーチングのスタートダッシュで大事なところ。TLCはここに本当に役に立っていますね。これがなかったら結構時間がかかると思います。
山田)たしかに。僕の感覚値としても「(深い内省が始まるという意味で)本当にコーチングが始まったな」という実感を得るまで時間がかかることってありますもんね。
植田)そうですね。
山田)ですので、形があるからこそ早いというお話ですね。確かに、組織の費用負担でコーチングを導入する場合は、案件オーナーさんがいて、クライアントさんがいて、コーチという「3者のチーム」で物事が進みますからね。
クライアントとの協働関係をつくる
植田)そう。そして、TLCがあることでコーチとクライアントの協働関係を作りやすいと思います。コーチは案件オーナーに雇われてクライアントの前に現れる存在であり、クライアント側の準備ができていなければ「お手並み拝見」的な状態になりかねない。
それでは実のあるコーチングに入れるまでに時間がかかってしまいます。ここにTLCがあり、お互いに結果サークルを見ていると、構えている余裕がなくなってくるのがメリットだと感じています。
山田)なるほど。正面同士で向き合ったところから協働関係をつくるのではなく、同じ絵を見ながら同じ方向を向いて会話を深めることで協働関係を作りやすいということのようにも見えますね。
植田)そうそう。もう先に「裸」見られちゃっているから、仕方ないみたいな(笑)
山田)なるほど「「裸」を見られちゃっている」ね(笑)。とはいえ、(TLCの結果サークル上に)裸が見えちゃっているのに、「「裸」見せるのヤダ」っていう人も結構多いのではないでしょうか?
植田)ありますね。そういう時は「まさに自己防衛(※)の反応が出ていますね。」と伝えながら関係を創っていきます。
※ 自己防衛:他者と距離を置くことで自尊心を守ろうとする反応。TLCの結果サークルに項目が位置付けられており、フィードバックアンケートを元にスコア化される。
山田)なるほど、結果をそういうふうに使っちゃう感じですね。
相手の思いを「認知」する
山田)特に不器用な方向に出てしまっているリーダーシップは、本人が無自覚だからこそ、そのような形で出てしまっているのだと思うのです。脊髄反射みたいな。そして、無自覚だからこそそれを「認めたくない」という気持ちもあるのだろうと思うのです。そのあたり、何か思うところはありますか?
植田)おそらく、部長やそれ以上の立場の方々は、「そのやり方」で成功してきたからこそ、今のポジションを得ているものだと思います。だからこそ、薄々気づいていたとしても、変化することに勇気が要るのだと思うんです。怖さもあるでしょうし。
そこは「悪いから変わりなさい」という接し方ではなく、「あなたがここまでやってきたのはこのエネルギーがあったから」、「あなたの原動力はここにあるのですよね」というところを、まずはしっかり認知して伝えていく必要があります。
相手も「自分のことをわかってもらえた」と思うところから関係性ができていくものだと思いますし。
不器用なリーダーシップの裏にある人間らしさ
TLCの結果サークルに関する背景の質問などをしながら「この人、そういう思いでここまでやってきたんだな~」といった「リアクティブ」の不器用な反応の中にある愛おしさ、人間臭さが大事な魅力なんです。
山田)これまでのやり方が自分を守っているからこそ、それを手放すのは怖い。そこに対して、「素晴らしいリーダーのコンピテンシーとはこういうもので、できていないから修正してください」というアプローチの仕方もあるが、今を否定することなく、過去も否定することなく、認知するからこそ先に向かえる、ということのパワフルさをお感じになっている様子ですね。
植田)はい、まさにその通りです。
植田)コーチの側から「このリアクティブが強いからこっちに行きましょうよ」という関わり方をすると「行かされる」感じがすると思います。やっぱり「こうやって生きてきて、今があるんですよね」と関わり、それをクライアントさんも受け入れた時、「いつまでもそこにいるつもりはないんです」と自分から一歩踏み出すコメントが出てきたりします。そこを応援したいですね。
「その人にしかないリーダーシップ」
山田)自分の苦しみなども、わかってもらえたという経験はクライアントさんにとってすごく大きいんですかね。
植田)本当にそう思います。TLCというよりもコーチングのベースだと思うのですが、「自己受容」、人に受け入れられることを通して自分でも自分を受け入れることは本当に大事だと感じています。自分を否定して何か別のものになるのではなく、そうやって頑張ってきた自分を「ヨシヨシ」と受け入れることで、それが次へのエネルギーになっていきます。
山田)「リーダーシップ」は別の人になろうとするのではなく、自分をありのままに表現していく、ということなのでしょうか。
植田)そうです。だからこそ、本当のリーダーシップとは「その人にしかないリーダーシップ」になっていくんですよね。
これまで生きてきた物語を聴く
山田)先ほど「背景の質問」というお話も出ました。TLCの結果サークルだけを見てスコアの形が「出っ張っている」「引っ込んでいる」とかそういうミクロの視点ではなく、「その人の人生」とか、「今のポジション」とか、「課されているチャレンジ」とか、全部背景を見た上で読んでいくというところもすごくパワフルだな、というところでしょうかね。
植田)本当に。最近はTLCがないセッションだとしても聴きたくなるぐらい、「背景の質問」は豊かなものですね。ここを聞くことがリアクティブに現れる心のクセを生み出したきっかけの理解につながると実感しています。
「なるほど、そこはそういうことなのね」というところを聞かせてもらうと、その人の歩みとか人生が立体的に見えてきて、愛おしくなります。
たとえば、TLCの結果サークルで、クリエイティブ側の「目標達成」もリアクティブ側の「操作」もスコアが出ていない人がいて、その背景を聞きました。そうすると、それは自分が入社した頃に「操作」系の上司がいてすごく嫌だった経験があった。「自分はあれはしてはいけない」「あのような振る舞いをしてはいけない」と体がキュッとなる。
N=1でしかないその人のその経験が、本来のその人ではない、その人を小さくしてしまうような「キュッ」という動きを作っている。
山田)それが「無自覚な反応」なんですよね。そして、それがわかった瞬間に本人が癒されるというか。
植田)そうなんです。キュッとなる反応の背景にあるのが「オールドストーリー」で、それに気づいて、今はどうしていきたいのか、ということをここから選択できる。それに気づいたらすっと足が出る感じがするんですよね。
山田)そこから、自覚した上で選択していく、ということですね。
植田)そうすると、本当にスタートダッシュが早いし、話は「リーダーシップ」の文脈なんですけど、結局はその人の「本来ありたい姿」に戻っていくんだと思います。
山田)TLCはそういうところを効果的にガイドできるという…
植田)素晴らしいツールです。
コーチングのブレイクスルーに
山田)ありがとうございます。では、ここまで色々お話をいただいて、まとめていきたいのですが、TLCについてのリコメンドの一言をいただければと。
植田)TLCってその人が発揮しているリーダーシップをアセスメントしてくれる素晴らしいツールなのです。
でも、TLCの結果サークルだけを見せられてもクライアントはうまく活かせなくて、腕のいいコーチング/デブリーフィングがセットで活きてくるものだと思っています。コーチングの「拡大質問と間」みたいに、「TLCとコーチング」は一体不可分なものなんです。
だからこそ、組織でリーダーを応援していきたいというコーチには、これを身につけていただきたいし、さらには、これはコーチ自身のリーダーシップ開発にもつながってきます。他人に向けた「刃」は自分にも返ってきますからね。
山田)たしかに。TLCの資格認定コースでも、自分自身がTLCのフィードバックを受けるという場面がありますし、他者に対してサークルを「突きつける」というか、一緒に見ていく瞬間瞬間が、ブーメランのように自分に還ってきているという感覚はありますね(苦笑)。
植田)ディブリーフィングをしながら「操作」をしたくなっちゃう自分とか、ついついクライアントにおもねてしまう「他者依存」な自分とか、自分の癖にも気づかされます(苦笑)。
山田)「大丈夫ですよ~」とかいって、クライアントが落ち込んでいるのを過度にケアしようとしたりしてね(笑)
植田)自分(コーチ自身)も自分のリーダーシップに向き合わされちゃいます。
リーダーシップ開発の真の指針となるツール
山田)そうした意味では、TLCは単なるツールではなく、コーチングと本当にセットになる、一体不可分なものとして存在するからこそ価値があります。ということでありますので、「我こそは」というコーチの皆様には取り入れていただきたいですね。
そして、これからビジネス文脈でリーダーの皆さんをサポートしていきたいというコーチのみなさんにとっては、コーチングの導入のツールになるし、TLCを深めることによって自分自身も開発されてしまうという恐るべきツールですね。
植田)そう、恐るべきツール(笑)。
植田)こんなに「リーダーシップ」に特化したツールってないと思っています。とても汎用性があります。コーチの人は是非TLCを使ってパフォーマンスを上げて欲しいと思います。
山田)間違いなくパフォーマンスは上がりますよね。こんなところで、言い切っていいのかわからないですが…
植田)保証するよね、私たち(笑)
山田)では、言いたいことは出しきった感じですか?
植田)はい、出し切ってすっかり熱くなっちゃいました。
山田)ではでは、この辺で。
植田)ありがとうございました!