モチベーションの源
研修や、コーチングのお仕事をいただくときのニーズとしてよく耳にするのは 、「モチベーションを向上させたい」「モチベーションが下がっていて…」 という声です。「モチベーション」という言葉は一般的に「意欲(やる気)、 動機づけ」ということで使われていますが、意欲や動機の「源」は「価値観」と密接につながっています。コーアクティブ・コーチング ® の一つの道筋として 、「 価値観 」に焦点を当てたかかわりがありますので、2回にわたってご紹介していきましょう。
価値観
皆さんがもし中学生に「『価値観』って何ですか?」と尋ねられたらどのように答えるでしょうか。私は、「価値観」とは、何か行動を選択するときの個人的な一つの判断基準」と伝えるようにしています。
では、ここで少し、「価値観の違い」を実感できる実験をしたいと思います。
情景を思い浮かべながら 次のストーリー読んでみてください。
「あなたは、3カ月前から大切な友人 Aさんと今日18 時~食事にいく約束をしていました。 気の合う友人で、よく食事にいく仲ですが、最近少しご無沙汰していたのでお互いとても楽しみにしています。
そこへ、突然15時ころ、 Aさん同様大切な友人 Bさんから『今、日本に帰ってきていて、次はいつ会えるか分からないので、ぜひ今日の18時~食事したいんだけど』と電話がかかってきました。
3人で食事をすることはできません。あなたならAさんと食事にいきますか? Bさんと食事にいきますか? 直感的に選択してみてください。
そして、 なぜその選択をしましたか? 人は潜在的な「価値観」にアクセスして行動を選択しています。Aさんと食事をする、と選択した方は、数あるあなたの価値観から「約束」という価値観を優先して選択したと言えます。
一方、Bさんと食事をすると選択した方は、同じく数ある価値観の中から「機会(Opportunity)」を優先して選択したと言えます。これが「価値観の違い」です。
ただ、日常では、何かを選択するのに、自分の潜在的な価値観にアクセスして答えを出すプロセスをとる方はあまりいません。
ほとんどが無意識で「一般的にはこれが正しい」というものさしで決める場合がほとんどです。
少し発展させると、この「価値観の違い」から生まれる「選択する行動の違い」が関係性において対立を引き起こす大きな要因の一つになっている場合 が多いのです。
「価値観」の一つ一つに良い悪いや優劣はありませんが、上述のように、日常ではすべての行動の選択をするときに自分の価値観に自覚的にアクセスして答えをだす訳ではありませんので、会話の中では「選択した行動」について話されます。
先ほどのストーリーを題材にして想像できる対立は 、「なぜ 、Bさんと行くんだ ! 約束は大切だろ!」「この場合はBさんと行くのが通常でしょ。めったにない機会なんだから!」 という感じの対立会話になっていくのです。
いかがでしょうか。
日常の中で思い当たる関係性や 場面が思い浮かぶのではないでしょうか。この「価値観」はこれまでの生きてきた人生の中での経験から作られていき、また 、優先順位も変化します。
結婚するなら価値観が一緒の人を選ぶといいよ、と言われるのは、価値観がよく似ていると選択する行動がよく似ているので対立しないからです。
しかし、年月がたち、「以前はあんな人じゃなかったのに!あの人は変わったわ… 」と思えたり、かみ合わなくなってきたりするのは、先ほども述べましたが、価値観は経験から作られますので、 それぞれにいろいろな経験を積み重ねると価値観の優先順位が変化したために行動の選択が変わったからです。
これは至極当然のことですが、残念ながら「そうか、価値観が変わってきたんだね」という思考にはなかなかなりません。
「~しなければ/すべき」から ~したい」へ
ではこの「価値観の違い」を職場で どのように活用するのかを考えてみま しょう。日常や、特に職場では、顕在 化している「事柄」について話される ことが多く、その下に隠れている潜在 的な「その『人』が大切にしている価 値観」に焦点をあてて会話することは 滅多にないと思います。
また、本人も 自分の価値観が明確になっていない がために、一番力の出る価値観(~ したい)を選択せずに、環境や状況 に合わせる行動(~すべき)を選択し ている場合が圧倒的に多いです。
「~ すべき」を続けているとどうなっていく かは、皆さんのご経験上よくお分かり かと思いますが、間違いなく疲弊して い きます 。
大事なのは 、「 ~ すべき/ しなければ」から「~したい」にどう やってモチベート(動機付け)するか ということです。 そこで「価値観」の 登場です。「価値観」を明確にすること、 そして価値観に焦点をあてた会話をすることで、劇的に関係性に変化が起きたり、また「モチベーション」に影響を与えることが可能になります。
例えば 、「今日街頭でフライヤーを1000 枚以上配布」という仕事を依頼したいときの声掛けを考えてみましょう。
仮に A さんの大事な価値観が「勝 負に勝つ」であれば、「昨日 B 君は1200枚配布してきた。君なら1500 枚配布できるはずだと思う。これまで 1500 枚配布した奴はいない。記録を目指して頑張ってきてくれ!」
という声掛けにするといいでしょう。「配布しなければ」から「配布したい(勝ちたい)」 に変わります。
では、「創造(Creative)」 が大事な価値観の C さんに依頼するとしたらどのような声掛けが「しなければ」から「したい」に変わるでしょうか。
一つアイデアがあるとしたら、「フライヤーを一日で 1000 枚以上配布するのに皆苦労している。ぜひCさんのいつものクリエイティブな思考で、どうしたら配布できるのか、その知恵を蓄積していきたいと思っている。今日はこれまでやったことのない方法で 1000 枚を配布して、その経験をまとめてほしい」という感じでしょうか。
人は「価値観」を尊重されると喜びや安心、意欲がでてきます。逆に「価値観」を否定されたり、無視されたり、ないがしろにされると、悲しみ、痛み、辛さが出てきます。それだけ「価値観」は感情とも密接につながっています。
自分自身の「価値観」を探求する
「ダイバーシティ」という概念が日本でも重要視されていますが、本当の意味での「ダイバーシティ」はもっともっと身近にあり、それこそ、自分の価値観を自分自身がまずは明確にし、それを受容し認めていくことから始まるのではないかと思います。自分は、どんな価値観を大事に生きていきたいのか、仕事における大事にしたい価値観とは何か、まずは自分に問いかけてみてください。そしてその「価値観」を自分自身が心から尊重して行動しているのか問うてみてください。
今回の柴原の記事は週刊ホテルレストランで連載されています。